11月 24

将来の獣医師を目指す学生たちの ツナギユニフォームに刻まれたユニークな文言 

 「なんでこんな事が起こるのか…」
被災地の惨状を目の当たりにした時、誰しもが心に抱く「神の仕打ちに対しての疑問符」だろう。
 子どもの頃から自然の脅威に晒され、その威力を肌・耳・目全身で体感してきた。 その時人間の力は成す術などなく、防御すら出来ずにただ逃げ惑い、身を守る事でしか生き残る道はなかった。

 或る大学の親しい教授が話された言葉だ―――『安全はお金で買えるが、安心は買えないンだよ』。  2010年春から夏にかけて南九州における乳・肉牛業界を襲った「口蹄疫問題」。宮崎県だけで29万頭近くにも及ぶ家畜の殺処分は、未だ記憶に新しい事だと思う。 日本中を震撼させた「口蹄疫」の大波は全世界にまで波及した・・・まさかあの時の悲しみをお忘れではない事を願うが。 師は宮崎で最初の「口蹄疫」を発症させた牛が確認された一報を受け、即座に隣県での対応処置を施し、他県への「口蹄疫」感染流入防止に奔走された。 この時、師が必死に対応された事は一般には知られていない。 『口蹄疫は、一国が滅びる位の影響があるから、対応を誤れば甚大な被害になる』と、繰り返し言われていたが、残念なことに教授の予感は的中してしまった。 余りにも大きな犠牲、せめてもの救いはギリギリの所でくい止り、他県に飛び火しなかった事だけである。

 この教授は「偶蹄類」豚が専門の獣医学博士、獣医師だ。 師と知り合ったのは「口蹄疫」が発生する前だった。 研究室へ通い始め教授に同行させて頂き、県内の養豚場を廻り衛生面から飼育面、その全工程を隈なく見聞した。 「如何に黒豚飼育に関する管理者の、衛生面に対する意識を徹底させるか、黒豚飼育の生産現場から食肉流通の末端まで行き渡らせるかが最大の課題であると共に、気骨ある獣医師になる為の卵たちを育てるのが使命」だという。その卵の中には海外留学生もいる。  近年黒豚を一躍有名ブランドにした師の功績は、学術界からも認められ権威ある賞を授与された。 大学での講義授業を日々行う間、養豚場へ学生と足繁く通い、年間2000頭もの豚から血清を採取し、検査を繰り返す作業は汗と糞にまみれる。 栄えある授賞は、弁当持参で愛すべき黒豚と格闘されてこられた誇り高き結果である。

 「口蹄疫」が猛威を奮っている最中、教授へ尋ねた『どうして、こんな事が起きるのか?』
―――『人が運んできた災いだヨ!』。 過去の古い事例を紐解き説明を受けた。百年前も世界的流行で蔓延していた「口蹄疫」だった。 対応策は日頃の徹底した殺菌予防しかないとのこと。 車は、事故を起こすもの・・・だからシートベルトの着用が義務づけられた。 船は、沈むもの・・・だから救命胴衣を身につける。 飛行機は、落ちるもの・・・だから!?、 搭乗する際保険に入って乗り込めば安心なのか。  飛行機墜落事故から26年も経過しているにもかかわらず、日本では搭乗者一人一人にパラシュート(落下傘)装着義務の議論さえ起きないのは、安心さえもお金で買おうとしてきた、人としての傲慢さである。                               (了)